【前回コラム】「世界で活躍する日本人マーケターの仕事(サントリーペプシコビバレッジタイ 川口洋之さん)後篇」はこちら
加藤匡嗣(かとう ただつぐ)氏
ウォルト・ディズニー・カンパニー
米国本社 デザイン担当バイスプレジデント
大阪府生まれ、米ロサンゼルス在住。新卒で博報堂入社後、TBWA\HAKUHODOへ出向し、TBWA Chiat Dayへ。2011年ナイキに入社。日本のブランドコミュニケーション統括部長、米国本社ランニング担当グローバルマーケティングディレクター、グローバルブランドデジタル本部長等を歴任。2017年ウォルト・ディズニー・カンパニーに入社。米スポーツ専門チャンネルESPNのイノベーション本部長兼シニア・クリエイティブ・ディレクターとして新組織をゼロから立ち上げ、デジタルプロダクト開発や地上波におけるイノベーションを担当。その後クロスブランドデザイン本部長を経て、21年にデザイン担当バイスプレジデントに就任。ディズニー、ESPN、FX、ナショナル ジオグラフィック、スター・ウォーズをはじめとする10を超えるブランドの90を超えるアプリやWebサイトおよび数百のエンタープライズプロダクトのデザイン全般を世界的にリードする。広告やデザイン、デジタルプロダクト、データやテクノロジーなど多岐にわたる分野で受賞多数。2020年には米「Advertising Age」誌の「40 under 40」に選出。日本生まれ、日本育ちでありながら、世界を舞台に活躍するクリエイター。
デザインの力で加速する、ストリーミング市場で魅力的な体験をつくる
— 現在のお仕事について教えてください。
今年の5月からアメリカ本社で、映像コンテンツ全ての配給と世界展開、およびダイレクト・トゥー・コンシューマー用のデジタル商品開発を担当する事業部門である、ディズニー・メディア&エンターテイメント・ディストリビューション(DMED)において、デザイン担当バイスプレジデントをしています。担当しているのは、ABC、ABCニュース、Freeform、FX、ナショナル ジオグラフィック、マーベル、ESPN、ディズニードットコム、ディズニーナウ、オスカー、スター・ウォーズなど、非常に個性的な10以上のブランドのデザインを統括しています。
デザインチームの役割は、これらすべてのブランドのプロダクトをつくること。各ブランドのウェブサイトやアプリを開発する上で、デザインに関わるもの全てを担当していると考えてもらうとわかりやすいと思います。
ワイヤーフレームを立て、デザインを起こして、UXをテストしながらつくり上げ、サイトやアプリにフィードするコンテンツの一部も揃え、実際のプロダクトに仕上げていきます。アプリにもいくつか種類があり、モバイルのみならずアメリカにはOTT(オーバー・ザ・トップ)と呼ばれるテレビのアプリもありますので、全ブランド合わせると毎月3.8億人の生活者が利用する90以上のウェブサイトやアプリが存在します。また、社内ツールやダッシュボード、広告主向けのデジタル商品、コンテンツ・マネジメント・システムなど、数百におよぶデジタル商品を担当しており、領域は多岐におよびます。
私は、これまでのキャリアの中で、マーケティングやコミュニケーションの仕事もしてきましたが、今の仕事の面白さは手がけているものが一生モノになるということ。マーケティングの施策はキャンペーンドリブンであるため、どれだけすごいキャンペーンであっても3カ月程のサイクルで終わってしまいます。一方で例えば、アプリは毎日体験する人が何万人もいて、ずっと使ってもらえるように育てていくことができます。
— ディズニーに入社してからの活動についてお聞かせください。
最初はウォルト・ディズニー・カンパニー内のスポーツ専門チャンネルESPNのイノベーション部署の責任者として入社しました。ここではエンジニアやデザイナー、プロダクト開発者を集めてゼロからチームを立ち上げました。具体的にどのようなことをしたかといえば、例えばESPNのスポーツセンターという番組では、VFXという技術を使ってオンエア中の番組とCMを完全にシームレスにしました。番組とCMの間には境目があり両者は分断していますが、番組からCMに移ったことを感じさせない体験を開発したのです。その他にも多数のモバイルアプリのプロトタイプを13週間で開発し、次世代のエンターテイメントの形を提案していきました。
その後、組織改編に伴い2018年にデザイン部門へ異動。10以上のブランドのプロダクトデザインとUXを統括する上で、共通のデザインシステム「Prism」というものを立ち上げました。これまでであればABCやESPN、ナショナル ジオグラフィックなどそれぞれのブランドが、ブランドごとにストリーミング用のビデオプレイヤーを使用していました。各々のブランドごとにデザインチームが異なり、コードもデザインも異なるプレイヤーがつくられていました。「Prism」を導入したことで、ひとつのビデオプレイヤーをデザインすれば、全ブランドで活用することができ、コードやデザインの統一、チーム体制の効率化を実現しました。それによりイノベーションの更なる促進、開発速度の加速を達成することが可能となりました。
現職に就任してからは、業務領域も飛躍的に拡大し、各デジタルプロダクトのUI・UXデザインのみならず、それらプロダクトに使用するコンテンツの制作やモーションデザイン、UXリサーチ、プロトタイプ開発などを担当しています。